囚人とYさん part.1
第一日目
いつからなんだろうか、彼がこの狭い牢獄に閉じこまれたのは。振り返ってみれば、たぶん十年近くだろう。時間的にはずいぶん長い間だが、周りの環境は大きな変わりがなかった。狭くて、絶望感が満ちている監房はそのままだし。冷たい鋼の檻が静かに外の世界を隔絶した。こんな牢獄での生活はそんなに悪くないと思ったのは、鎖が掛けていた時間が長すぎて、魂がもう逃げることを考えられないからかもしれない。思想と活力がどんどん削られたら、拘束されることも慣れたわけだ。時間はただ、無意識の中で急速に流れ行った。彼が振り向いた時、この閉鎖な空間でもうこんなに長くいたことを、初めて気付いた。
幸いに、体の調子はまだ良いみたい。脳が命令する時、微弱な電波が神経を通して体の隅々まで行くと、まだ誤差もなく動ける。それがもうとても喜びに値することだ。
この十年の間で、誰も彼を見舞いに来なかった。といっても、そもそもそうしたい人も存在しないだろう。彼も別に気にしていなかった。彼にとって、廊下の警備員が二回替わって、右の部屋の人が7年目の時に出所した以外に、人間関係の変化はいっさいなかった。
時に、檻の外の廊下を見る時、外の世界はどうなってんのだろうと、彼はそう思ったこともあった。
ここはだいぶ前に建てられた刑務所のはずだ。壁も窓も、部屋に設置しているものも全部古い形をしていて。天井にある蛍光灯さえも、まだ幼い頃に、ふるさとの田舎で見たものと同じ様式だ。
少なくとも30年以上なんだろう、あんな古いデザインは。もし考えてみると、今時の明かりはもっと目新しくて、さらにきらびやかになったはずだ。
でも、なぜ他のものではなく、蛍光灯なのか。
彼は氷のように冷たい檻を掴め、蛍光灯からの光線は少し目眩しい。この温度も光も、この狭い部屋に入ってきたばかりの時と全く同じだった。
第二日目
監房の棚には、誰かの祖父が残したような目覚し時計がある。見た目は極めて古く、時計としての正確さを疑われるほどだった。それに、例え設定しなくても、勝手に鳴くことがよくあった。彼は一度に偶然で時計を落とした、四年目の時だった。そのこと自体は無意識でやったが、驚いたことに、それ以降に二度と予告無しに鳴くことがなかった。知らない間に、この目覚し時計を見ているのも十年近くなった。数月前に、一度照合してみたけど、ほとんど誤差がないようだ。
時計としては真面目だな、机に置いた時に彼はそう思った。
彼は昼寝の習慣があった、ここ数年養ったばかりだけど。時計がIIとIIIの間にある所にさすと、「カタ」と軽く音を立つ。最初に彼はこの音を気にしなかったが、これは後に昼寝の時間を示す音でもなった。
最近天気が暑くなったせいか、昼寝をする彼はいつも不穏な感じをした。それは白昼夢の所為だった。混乱で不正常な夢は安寧なはずの時間を掻き乱した。といっても、彼は別に考えことなど深くしなかったし、思いに負担なんかも全然ない。だからほとんどの白昼夢は全く知らない場所できょろきょろしたり、もしくはぼんやりした遠い昔の思い出だけだ。
今日も同じだ。時計がいつもの音がした時、彼は手元の事を一旦置いてーーそもそも重要なことじゃないーー休憩を取りに行く。
瞼を閉じた後すぐに、彼の真っ黒な世界は小さく震えた。誰かが不意に彼の寝台を揺らしたような、けど眠気はどんどん濃くなって動こうともしなかった。
隣の人が壁をノックしてるんだろう、彼は朦朧の中に思った。
廊下で警備員の足音がした、彼の推測を裏付けるように。
なぜあの人は壁をノックするのか、完全に無意識の世界に沈む前に、彼はなんとなく考えた。
第三日目
彼のベッドはかなり小さくて、牢獄に合う狭さもある。一方の足にある固定用のネジの一つがいつの間にか少し出てきて、その部分が錆びてしまい、白く塗られた足に相まって違和感がたっぷり。もう一つの足には、多分この部屋の前の主が貼ったステッカーがあった。彼が一回だけそれを剥がそうとした、6年目の頃に。しかし何十分の努力の結果、一番右側の一部しか剥がれなかった。シールに印刷された文字が結局「毛玉ゼロ!縮ま」になって、最後の「ない!」は掃除作戦の後に行方不明になった。
どころで、こんなシールは二十年前くらいの無地のシャツにだけあった気がした。それを剥がそうとした時に彼は気づいた。
刑務所の服は、管理者たちが配った囚人服以外に、常服はだいたいいわゆる「寄付品」からきたものだ。使え道が無くなった、あるいはサイズが合わない衣服の一部が、奇妙な旅を経って、囚人たちの体にたどり着いた。
だが、常識的に考えば、一度着た衣類なら、こういうシールはもうすでに剥がれたはずだ。いくつのシールが付いていたままの服は、誰だって着たくないだろう。
だから彼が長い時間で考えた、このシールが貼っていたあの服は、一体何を経験した、と。
買ったからすぐに着られないと気づいたから?
それとも他の複雑な原因があったのか?
彼がまだ子供の頃は噂があった、それが町のあるヤンキーのこと。深夜の山道で事故を遭って、崖から落ちてしまった。助けに行った人が到着した前に、命はすでに落としたという。ヤンキーの家族は形見を集めて、服などのほとんどを寄付した。
そういう原因じゃなかったらいいな、記憶を呼び出した時、彼はいつもそう思った。
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